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北の廃線跡地をたどる旅[小樽市編]

Abandoned line in Otaru

かつて鉄道が走っていた場所へ出向き、その土地の歴史や文化、食にふれる旅の第2弾。
今回は北海道で最初に開通した鉄道として知られる幌内鉄道の一区画、手宮線 南小樽-手宮間の跡地を訪ねようと、小樽市に足を運びました。

遺構を眺め、ふれながら
緑に染まる手宮線跡地を散策

札幌からJRの快速列車で約30分。かつて北海道開拓の玄関口として栄え、現在では北海道を代表する観光エリアとして国内外から人気を集める小樽市。

そんな小樽市に日本で3番目、北海道で最初の鉄道が誕生したのは明治13(1880)年。日本の近代化を図ろうとした明治政府は、石炭をはじめとする北海道の豊富な地下資源に注目し、本格的な北海道開拓と地下資源の開発および輸送を目的に鉄道建設に着手したといいます。
幌内(現在の三笠市)の良質な石炭を小樽港へ輸送するべく、幌内鉄道の最初の開業区間として小樽・手宮-札幌間が開通し、明治15(1882)年に幌内までの全線が開通しました。その後、幌内鉄道が国有化されたことにより小樽-手宮間が「手宮線」となり、大正9(1920)年には「小樽駅」から「南小樽駅」に改称。廃線するまでの100年以上もの間、小樽経済の発展に貢献しました。

平成13(2001)年、小樽市が中央通り~寿司屋通りの区間510mの用地をJR北海道から購入し、市民や観光客の憩いの場となるようなオープンスペースの整備を実施。さらに平成19(2007)年に小樽市総合博物館までの区画を追加で取得し、全長約1.16kmの遊歩道が出来上がりました。

寿司屋通り近くの遊歩道出入口

 

話は戻りますが、当時の鉄道工事はアメリカの技術によって進められ、蒸気機関車もアメリカから輸入したとのこと。当時の最上等客車である「開拓使号」は現在、埼玉県の鉄道博物館に保存されています。
小樽市総合博物館には国指定重要文化財に認定されている旧手宮鉄道施設が残されており、北海道で最も古い動態保存の蒸気機関車「アイアンホース号」の見学や乗車ができるなど見どころ満載。手宮線のみならず北海道の鉄道の歴史を体感できる場所です。

明治18(1885)年に手宮に配置された蒸気機関車「しづか号」は通年展示されている

遊歩道はその名の通り車や自転車で通ることができないため、夏は線路の上に寝転んで写真を撮る人の姿も。冬は雪に覆われてしまいますが、小樽の代表的な冬のイベント「小樽雪あかりの路」に使用されるなど一年を通して楽しむことができます。まずは春から夏にかけて、のんびり散策してみませんか。

 

ノスタルジックな雰囲気ただよう
ゲストハウス「Little Barrel」

古き良き街並みが残る小樽へ来たならば、宿泊先も思い出に残るような場所にしたい。

そこで訪れたのは、JR南小樽駅と旧手宮線跡地のほぼ中間に位置し、平成30(2018)年冬にオープンしたゲストハウス「Little Barrel(リトルバレル)」。たどり着いてまず圧倒されるのはその外観。大正13(1924)年に建てられた旧小樽花園病院をリノベーションしています。

 

マンサード屋根と漆喰の外壁が目印

オーナーの牛丸仁さんは岩見沢市出身。40歳目前で起業しゲストハウスを運営するにあたって、なぜ小樽という地を選ばれたのでしょうか。

「はじめは東京と札幌で物件を探していましたが、東京はあまりに競争率が高くて断念。札幌でもなかなか良い物件に出会えず、少し視点を変えてみようと千歳や小樽にまで範囲を広げてみました」

そのうち小樽の過ごしやすさを感じるようになり、いつのまにか魅了されていたと話す牛丸さん。ようやく出会えたと思えたのが現在の物件でしたが、当時はすでに売却済。泣く泣く別の物件を検討していたところ、売買契約がキャンセルされたとの朗報があり、晴れて手に入れることができたといいます。

オーナーの牛丸さん。オープンまでに日本各地のゲストハウスをめぐったと話す

ゲストハウスと聞いて思い浮かべるのは、ドミトリーや宿泊者同士の交流。けれどLittle Barrelでは客室の約3分の2が個室であるため、グループ単位での行動が多いといいます。

「オープン当初は約2分の1をドミトリーにしていましたが、お一人で泊まるお客様にも個室の需要が高い傾向にありました。元々の間取りを活かして最大6人部屋まで用意したところ、ファミリー層のご利用も増えました」と牛丸さん。

他にオープンしてみて驚いたのは、60代や70代など年配の方のご利用も多いこと。ゲストハウスという形態や写真映えする館内の装飾は若い世代に響くと考えていたそうですが、意外にも年代問わず好評だといいます。

 

事業を始めることはもちろん、継続していくにも苦労や悩みは絶えないはず。どう向き合い、対処しているのかを牛丸さんに尋ねてみたところ、「結局は工程を楽しめる人じゃないと続かないと思います。何から何まですべて大変。でもそれを大変と思わない。目標があるし、そもそもDIYも好きですしね」と話してくれました。

アンティーク品が並ぶ美しいリビング

「この階段に一目惚れした」と牛丸さん

最後に、小樽出身ではない牛丸さんだからこそわかる小樽の魅力と課題を聞きました。

Little Barrelがある南小樽エリアは起伏が激しいので、歩く場所によって見える景色がまったく違います。散歩しているだけで楽しいし、車で出かけた時も途中で車を停めて歩いてみる、なんてこともしますよ」と笑顔で話す一方、「観光名所になっている堺町通り商店街はもちろん魅力的ですが、私自身は花園銀座商店街をもっと推していきたい」と力強い一言。

花園銀座商店街(通称:花銀)

「スナックや居酒屋が密集しているので面白いのですが、多言語対応がなかなかできず外国の方におすすめしにくいのがジレンマです。せっかくなら夜の小樽も満喫してほしいので、そのために私ができることを見つけていきたいです」

Little Barrelそのものについても、個性的な建物を活かすような企画をもっと考えていきたいと話す牛丸さん。まずは令和2(2020)年中にカフェをオープンする予定だそうで、今後は観光客だけでなく地元の人にもさらに愛される場所になっていくことでしょう。

 

昭和へタイムスリップ!?
小樽市民に愛される老舗のパン屋

牛丸さんに周辺のおすすめスポットを聞いたところ、あるパン屋さんを紹介してくれました。訪れたのはLittle Barrelから徒歩約5分の場所にある、昭和24(1949)年創業の「亀十パン」。

まるで和菓子屋さんのような外観

中へ入るとガラスケースにおいしそうなパンがずらり。調理パンや菓子パンが常時40種類ほど並んでいます。亀十パンで何より驚くべきは営業時間。なんと朝4時に開店し、早い時間に売り切れるパンもあるといいます。撮影中もひっきりなしにお客さんが訪れ、地元の人々の胃袋を支えるお店なのだと実感。ほとんどのパンが100円台~200円台と手頃な価格なので、いくらでも買ってしまいそうになります。

今回いただいたのは名物「厚切クリーム」と、溢れんばかりの麺を挟んだ「ナポリタン」。
見てください、この厚さ。約3cm厚の食パンは弾力があってもちもち。サンドしているバタークリームは素朴な味わいで、ボリューム満点なのに飽きのこない絶妙なバランスに仕上がっています。ナポリタンは喫茶店で食べるようなケチャップの主張が強い味付け。玉ねぎの食感が良いアクセントになっています。

ふと気になって他にも老舗パン屋がないか探したところ、レトロな佇まいが魅力的な一軒を発見しました。
続いて訪れたのは、昭和27(1952)年創業の「友和(ゆうわ)のパン」。以前は別の場所で営業していたそうですが、約45年前に現在の場所に移転してきたといいます。

梁川通りに面したお店。中の様子がよく見える

こちらもガラスケースにパンがずらりと並んでおり、焼きたてのパンも次々とケースの上へ。おすすめはメロンパンと聞き、さっそく購入していただくことに。生地はしっとり、甘さ控えめで、幼い頃によく食べていたメロンパンを思い出す味わいでした。

食欲をそそる焼きたての香りが広がる

昔は鉄道を降りた足でパンを買いに来る人が多かったそうで、今では札幌や千歳、恵庭などからも車で買いに来る人がいるのだとか。小樽のみならず友和のパンのファンは道内各地にたくさんいるようです。

 

 


観光エリアとしての町づくりを確立したがゆえ、北海道に住む私たちはどこか遠のいてしまっていた小樽。けれど、新たな魅力を引き出そうと奮闘する人、昔ながらの街の良さを守る人それぞれの小樽愛にふれ、この街が持つ新旧の魅力を感じた旅でした。知っているようで知らない小樽がまだまだ眠っているはず。掘り起こしたくなる場所が、また一つ増えました。

Gear8

WRITER

Gear8
ウェブディレクションチームとして札幌を中心に活動している会社で、2019年秋に10周年を迎えました。 お客様のウェブサイトリニューアルに関わる企画・設計、デザイン、マークアップ、プログラミング、運用支援を含めてワンストップでサポートしています。 その中でクライアントが伝えるべきことの本質を引き出し、伝えたい人たちに一番伝わる方法で表現することにこだわっています。