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未来を変えるトマトジン

Naganuma Vegetable Project

北海道長沼町。札幌都心部からおよそ1時間という立地でありながら、一面に田園風景が広がる農業の盛んな町です。人口1万人ほどのこの小さな町で、とあるプロジェクトが動き出しました。それは大袈裟でも何でもなく、“未来を変える”プロジェクトでした。

「野菜の未来を変える」

壮大なテーマをトマトのジンに乗せて

ラベルには、トマトのスライスがまるで花びらのように並べられたデザインと〈vegin〉の文字。これこそが“ナガヌマ ベジタブル プロジェクト”の第一弾として開発された、長沼町のトマトを使用したジン〈vegin tomato〉です。プロジェクトのキャッチフレーズはずばり「野菜の未来を変える」。この壮大にも感じるテーマには、一体どのような想いが込められているのでしょうか。

模索したのは“新しい切り口”。野菜を生まれ変わらせるプロジェクト

ながぬまトマト

トマトは長沼町のなかでもブロッコリーに次ぐ生産量の主力農作物

地元の生産者と農業協同組合が協力して、新しい切り口で長沼町の農作物を加工し、生まれ変わらせる。それが“ナガヌマ ベジタブル プロジェクト”。長沼町の農業の活性化と、野菜の楽しみ方を広げることを目的に、このプロジェクトは立ち上がりました。

「今までも米(ゆめぴりか)で日本酒を作ってはいましたが、全国的に見ても決して目新しいものではなくて」。そう語るのはながぬま農業協同組合の波川浩己さん。本プロジェクトの立役者です。
生産者も消費者も納得できる“新しい切り口”とは果たしてなにか。走り出しは模索したそうで、酪農学園大学(江別市)と協力して様々な商品アイディアを出していったといいます。

最終的に選ばれたジンは学生によるアイディアで、飲み方によって女性や若者など幅広い層に楽しんでもらいやすく、また使用する素材を選ばないのが魅力。今回のトマトを皮切りに、今後の展開も想定されたチョイスです。

ながぬま農業組合波川さん

さまざまな方の意見を聞きながら、野菜の目新しさを模索しつづけたという波川さん

“普通”のトマトに特別な価値を与える、〈積丹スピリット〉のジンづくり

国内では前例のないトマトのジンを実現するためにタッグを組んだのは、数多くのクラフトジンを手がけている〈積丹スピリット〉。開発にあたっては「ジンとトマトが完全に融合すること」を重視したといいます。トマトの甘味や旨味は熱を加えた方がよく出ますが、代わりにフレッシュさは失われてしまう。“新鮮なトマトの美味しさ”を表現するために、特別な抽出方法を使い試作を何度も行いました。

着想から半年以上、数回の試飲会を経てようやく完成したジンは、まさに“新鮮なトマトの美味しさ”を感じられるものとなりました。口元に近づけただけでフレッシュな香りが舞い込み、一口飲んでみると、さわやかですっきりとした味わいが口の中に広がります。

トマトジュースのようないかにもな“トマトっぽさ”ではないためどんな料理にも合うことが容易に想像できますが、試飲会では特に長沼町で獲れる他の野菜たちや、特産品のジンギスカンと合わせてマリアージュを楽しむことが提案されたといいます。食中酒としても、もちろんそのままでも楽しめる納得のジンが出来上がりました。

VEGIN tomato ラベルデザイン

トマトスライスを花びらに見立てたラベルデザイン

また面白いのが、糖度の高いフルーツトマトのような品種もある中で、今回はあえて“普通”のトマトを素材に選んだこと。糖度が控えめな分傷みにくく、一年の中で長期間に渡って作ることができる品種です。味よりも香りが重要な要素となるジン作りにおいては、糖度が低かったとしてもトマトの美味しさは十分に発揮されるといいます。ただ食べるだけでは見落としてしまうような、“普通”の野菜のポテンシャルを最大限に引き出した〈vegin tomato〉。「野菜の未来を変える」という言葉の意味が理解できた気がします。

まずは今年の秋に長沼町での販売からスタート。さらに気軽に試せるようにと、居酒屋など飲食店でも取り扱ってもらえるよう計画しているそうです。

プロジェクトの今後と、”未来の担い手”に対する想い

トマト圃場の前でveginをもつ波川さん

トマト圃場の前で。長沼町にはトマト農家が40戸以上あるという

「なんでもあるんですよね。ないものがない」と波川さんが語るように、長沼町で採れる農作物は非常にバラエティ豊か。生産量の最も多くを占めるブロッコリーをはじめ、トウモロコシ、ねぎ、白菜、米。今後もこれらの農作物を用いて“ナガヌマ ベジタブル プロジェクト”は続いていきます。環境や健康、法律など「守らなければいけないものも多い」としながらも、新しい取り組みへの活力は止まりません。そこには「野菜の未来を変える」というテーマだけでなく、より広く農業の未来、そして長沼町の未来を変えていこうという強い想いが込められていました。

「このままでは(長沼町の)人は減っていくと思う」と語る波川さん。長沼町の野菜と、それを育てる生産者を守るために、綺麗事ではなく野菜をお金に変えて地域経済を活性化させていく。さらに「ジンを作って終わりではなく、この商品によって長沼町の野菜が評価されて、未来を担う若い作り手のモチベーションを上げられたら」と続けてくれました。
ジン作りのきっかけが学生の言葉だったのもそうですが、波川さんの言葉の節々からは、若者の視点や感覚を大切にしていることが感じられます。

トマトのハウスの前で

実家がトマト農家というJA職員の方ともに

未来の担い手である若者たち。彼らに波川さんの想いが伝わったとき、一体どんな素晴らしい未来が作られていくのでしょうか。

「これは突飛な話ではありますが、長沼町の水田で別の何かを育てるような多面的な活用ができたら、なんてことも考えたりします」と、話のオチのように波川さんは笑います。しかし今回の〈vegin tomato〉も柔軟な発想と熱意によって生まれたもの。もしかしたら、冗談めいたアイディアもいつか本当に実現させてしまうのかもしれない。そう期待せずにはいられません。

一面に田畑が広がる長沼町

一面に田畑が広がる長沼町

Gear8

WRITER

Gear8
ウェブディレクションチームとして札幌を中心に活動している会社で、2019年秋に10周年を迎えました。 お客様のウェブサイトリニューアルに関わる企画・設計、デザイン、マークアップ、プログラミング、運用支援を含めてワンストップでサポートしています。 その中でクライアントが伝えるべきことの本質を引き出し、伝えたい人たちに一番伝わる方法で表現することにこだわっています。