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鮭箱に魅せられた職人と出会う旅

A trip to meet a craftsman who handles salmon boxes

北国の伝統的な保存食であり、お歳暮の定番でもある新巻鮭。大きな木箱に入った立派な鮭を目にしたことがある人は少なくないでしょう。輸送用の木箱いわゆる鮭箱は、吸水性や耐久性に優れながらも使い終わると破棄されることも。さらに近年は軽量で安価なダンボールや発泡スチロールの箱が台頭しています。
そんな中、役目を終えた鮭箱に惚れ込み、新たな価値を見出すものづくりに励むふたりの木工職人がいます。今回は大注目のクラフトマンユニット「ARAMAKI」を訪ねました。

消えつつある鮭箱を再利用。
日用品や家具、楽器へと姿を変えて

「ARAMAKI」は宮大工の村上智彦さんと、ギター職人の鹿川慎也さんによるユニット。恵庭市に工房を構え、本業の傍らARAMAKIとして鮭箱を使った日用品や家具、楽器づくりを行っています。お二人とも恵庭市出身で、村上さんは2012年、鹿川さんは2015年にそれぞれUターン。鹿川さんが友人の紹介で村上さんの工房に足を運んだのがお二人の出会いでした。
「鮭箱で作られたドクターバッグ(シャケバッグ)を見て、この素材に着目したことが面白いなと。あるものを活かすスタンスにも共感しました」と鹿川さん。
意気投合したふたりはARAMAKIを結成して勢いよく活動を開始……と思いきや、意外にもスタートは曖昧だったといいます。
「今日からユニット組もうぜ、なんて言ったわけではなく、お互いにプロダクトを作り合っていただけでした」と村上さんが言えば、鹿川さんも「ARAMAKIというユニット名も、東京で展示会をするときに『名前あったほうがいいよね?』と決めました。しっくりきたので使い続けているだけですね」と、ゆるい雰囲気で話します。

村上さん(右)と鹿川さん。結成時には村上さんの友人である家具職人も参加しており、現在は本州で活躍されている。「ここまで続けられたのも、彼が最初にシャケバッグを褒めてくれたおかげ」

そもそもARAMAKIの活動に“売れるものを作る”という思いは一切なく、“自分が作りたいものを作る”延長で注目を集めていっただけと話すお二人。「それぞれ勝手に作っては『コレどう?』『こんなのできたよ!』と見せ合って、勝った負けたと競っていました。僕が鮭箱を使い始めたときは誰もいいとは言ってくれなかったですから。単純に楽しんでいました」と村上さんは振り返ります。

「欲しいなら全部あげるよ」と譲り受けた30箱

道産子として見慣れているとはいえ、鮭箱をものづくりの素材として捉えたきっかけは何か。村上さんが最初に鮭箱を再利用したのは自宅のリノベーションでした。
「不要物で使えそうなものを探していた時に、知人の海産物屋さんの店頭にある鮭箱が目に留まりました。産地や加工会社の屋号を表す独特の書体や印刷の風合いに惹かれて、譲ってほしいとお願いしたら『全部持っていって!』と30箱も渡されて。かなり熟成された箱だったので、家族には少し嫌がられました」と笑います。

とても気さくで話し上手な村上さん。場が一気に明るくなります

あるものを再利用する、廃材を活用するという村上さんの姿勢は、宮大工として社寺建築の現場で教わってきた『木材を大切にする』『無駄なく使い切る』『適材適所』によるもの。こうして北海道の文化として根付いてきた鮭箱の魅力を再認識し、新たな活用法を見出そうと考えた村上さんは、鹿川さんと共に鮭箱のルーツにも興味を持ち始めます。
「譲り受けた箱は大樹町で使われていたもので、製造元は釧路にあると聞いたんです。すぐにメーカーに電話をして会いたいと話したら『鮭箱があるシーズンは繁忙期だから来ないでほしい』と言われました。それでも合間を縫って釧路まで行っちゃいましたね」
結果的に大樹町の箱を作っていたのは釧路のメーカーではなかったものの、お二人の熱意が伝わり、そこを起点として製材所や建築家の方など人脈が広がっていったといいます。今では鮭箱のストックがあると連絡がくるまでに。
箱の木材のこと、大きさや種類のこと、地域密着型で製造されていることなど鮭箱にまつわる知識も同時に培い、お二人はますます鮭箱に魅せられていきました。

大きさは主に19.5kgと17.5kgの2種類。昔は19.5kgではなく、20kg箱だった。他にもさまざまなサイズがある

鮭箱にはトドマツやエゾマツという道産の木材が使われていますが、加工をする上でメリットとデメリットはあるのでしょうか。
楽器を手がける鹿川さんは「柔らかい木なのでサクサク削れて加工性は高いですが、弦の張力に耐えるための補強が必要です。あとは化粧箱のように見た目を重視した箱ではないので節(茶色い斑点のような模様)が多く、普段なら楽器に使わない部分の加工には気を使いますね。でも逆にそれが良さでもあります」と話します。

鮭箱のウクレレ「シャケレレ」の端材でアクセサリーを作ることも


一方、「材料としての良し悪しは考えていないですね。箱を譲り受けた時点で愛情があるので、その好きな素材をどこにどう活かすかだけを考えています。僕の場合、本業でさまざまな木の特性にふれているのでそこまで影響はないです。でも鹿川くんが作る楽器は、音を出すというゴールがあるので、材料の取り扱いのセオリーやバランスが全然違います。同じ木工だけどアプローチが違うところに、みなさん面白さを感じてくれるんじゃないでしょうか」と村上さん。

古い鞄や壊れた鞄からパーツを持ってきたというスーツケース。相決り加工で仕上げている

お二人からは終始ものづくりを全力で楽しんでいる様子が伝わってきます。それもそのはず、お二人とも幼少期から工作に夢中で、好きが高じて選んだ仕事が宮大工でありギター職人だったのです。好きなことを仕事にするのは容易ではなく、場合によっては好きだからこそ壁にぶつかることもあるはず。だからこそ「クライアントワークだけでなく、自由に、自分が作りたいものを作るARAMAKIの活動に救われている部分もあるかもしれない」と村上さんはいいます。

会いに来てもらえる人になる

東京や関西など道外で仕事をしてきたお二人にとって、北海道で働くこと、恵庭市に拠点を置くことの意味はどこにあるのか尋ねてみました。
「考え出したのは子どもが小学校に入学する前かな」と話し始めた村上さん。「経験を積んだ宮大工が進む道はいくつかあって、工務店に所属して現場ごとに単身赴任生活を続けるか、独立するか、家族との生活を優先して転職する方もいます。僕は独立を選んだので、全国各地で自分の居場所を探しましたね。奈良の廃校を見たりもしましたが、妻も北海道出身だし、広大な景色がやっぱり落ち着くかなと思って。多少不便な場所でも“会いに行きたいと思われる人になろう”と考えました」

ギターメーカーや専門学校の講師を経て独立した鹿川さんも、工房を構える場所を探す中で湿度が安定していること、家族の紹介などもあって恵庭市に落ち着いたとのこと。「ふらっと立ち寄るような場所じゃないからこそ、来てくださるお客様は作りたい楽器や理想とする楽器が明確な方ばかり。僕もいわゆる楽器オタクなので、そういうお客様とお仕事できるのが楽しいです」。自分の作った楽器で演奏してもらえたり、自分もその曲を聴けることが最高の贅沢であり幸せと感じているといいます。

そしてお二人が声をそろえて言うのは「新千歳空港から近いので便利」。海外の仕事も手がけるお二人にとって、恵庭というエリアはまさに最適といえるでしょう。


最後に展望を尋ねると「その質問、苦手だなー」と言い出すお二人。
「ARAMAKIの活動を通じて北海道の漁業のこと、鮭箱メーカーや水産加工会社について知ってほしいという思いはあるけど、とにかく自分たちが作りたいものを作り続けられたらいいな」

熱量そのままに、純粋にものづくりを楽しむお二人が作り出す製品だからこそ、たくさんの人々の心をくすぐり、惹きつけているのだと感じた今回の旅。今後もワクワクする試みをいくつも予定しているそうで、ARAMAKIの活動から目が離せません。

※ARAMAKIの製品を購入希望の方はウェブサイトよりお問い合わせください。

Gear8

WRITER

Gear8
ウェブディレクションチームとして札幌を中心に活動している会社で、2019年秋に10周年を迎えました。 お客様のウェブサイトリニューアルに関わる企画・設計、デザイン、マークアップ、プログラミング、運用支援を含めてワンストップでサポートしています。 その中でクライアントが伝えるべきことの本質を引き出し、伝えたい人たちに一番伝わる方法で表現することにこだわっています。