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ウラ善光寺リノベーションの旅

Cultural column into Nagano

「リノベーション」の本当の意味をご存知ですか?
最近の長野・善光寺界隈では、空き家や空き店舗など、一度使われなくなった建物を自由に改修したり、改築したりして、新たな命を吹き込んでいる人が増えています。
今回は、そうした建物を使って、自分らしく生きている人たちを訪ね、知っているようで知らなかった、リノベーションの魅力をお伝えできればと思います。

アートと旅の書店「ch.books」

まず初めに訪れたのは、ch.books(チャンネルブックス)。
グラフィックデザイナー青木圭さんと編集・ライター島田浩美さんが経営する本屋です。
両隣にお花屋さん、革細工屋さんが並ぶ三軒長屋は、まるで西荻窪の路地裏のよう。
わくわくしながら扉を開きました。

以前はカメラ屋さんだった築90年の三軒長屋をリノベーションしたch.books

吹き抜けを生かしたリノベーション

旅やアートをテーマにした本がセンス良く並ぶ店内。普通の本屋では手に入らないような、ローカルな雑誌やフリーペーパーなどからも、お店のこだわりが感じられます。
そもそも、2人は、どうしてここにお店を開くことになったのでしょうか。

「前の会社を退職することになったときに、同僚だった(青木)圭くんが本屋をやりたいって言ってたのを思い出して」

島田さんの“思い立ったら即行動!”のバイタリティで、青木さんも先導されて退職・独立を決意します。

直後の2010年末、お隣のお花屋さんやご近所のアパレルショップなどの縁から求めていた物件に出合え、ch.booksをオープン。ちなみに「チャンネル」とは、前職が徹夜続きだったことから「ちゃんと寝る」と「ちゃんと(アイデアを)練る」という意味が込められているそうです。

ch.のリノベーションのポイントは、1階を本屋、2階を編集・デザイン事務所として使うこと。和室があった2階の一部を吹き抜けにしたことによって、2階の事務所から下の書店の様子がいつでもわかるようなりました。

工事はリノベーションが得意な大工さんに依頼し、自分たちもDIYで壁塗りに参加。お店で飼っている猫も、自由に行き来できる

夢をカタチにする空間

オープンから8年が経ち、ときおり開催されるイベントやライブなども好評で、旅好き、本好きのコミュニティスポットとしてすっかり町に根づいたch.books。
メンバーとして後に加わったデザイナーの星野智世さん、カフェ担当の滝澤愛さんも含め、和気藹々と仕事に励んでいるch.の皆さんは、生き生きとした表情が印象的でした。

とはいえ、二人には、まだまだやりたい事、やりたいのに、やれていない事があるといいます。
「まずは、2013年からお休みしている自社媒体のフリーペーパー『チャンネル』を再開することですね」と島田さん。
「5年連続の発言ですね」と笑う青木さん。

長野県内のニッチでディープなネタや美しい写真で構成された「チャンネル」。これが営業ツールとなって、仕事のオファーが続出したという伝説のフリーペーパー

何にも縛られず、自分たちの目線で納得のいく読み物を作ろうと、2011年から3年間、隔月で発行していた「チャンネル」は、島田さんのユニークな視点と丁寧な取材、そして青木さんの遊び心でデザインされたフリーペーパー。
二人の情熱が溢れる誌面に驚かされたファンの一人として、復刊が楽しみです。
リノベーションによって生まれた場所が、更なる想像力やアイディアを引き出す空間として生きている、そんな魅力がいっぱいのch.booksでした。

思いを馳せる台所用品・民芸
「オーロラキッチン」

次にご紹介するのは、善光寺表参道から東へ一筋入った東町にある町屋の一角。門前のリノベ店舗としては比較的新しく、2019年3月末に開店した「オーロラキッチン」です。

昭和初期のハンコ屋さんの店舗兼住居をリノベーションしたオーロラキッチン

オーロラが生まれる空間

オーロラキッチンは、台所用品と民芸を扱うコンセプトショップ。店主でグラフィックデザイナーの須田ゆかさんの事務所でもあります。扉を開くと、10畳ほどの土間と6畳ほどの小上がりに、竹細工からお鍋、器、台所用洗剤まで様々な商品が並んでいます。それぞれの品物は当然、異なる生産者から仕入れられ、その機能もデザインも異なるのですが、店内はなぜか大きな調和に満ちていて、初めてにも関わらず、瞬時に居心地のよさを感じてしまいました。

竹細工や漆器など長野県の工芸を中心に、台所用品や食器が並ぶ店内

「伝統工芸も新しいものも織り混ぜて、想いを馳せながら道具を選んで欲しいと思って商品を選んでいます。ここに来たお客さんの頭の中に、食卓や料理などイメージが膨らんで、それが“オーロラ”みたいに色彩を放ってくれたらいいなと思って、お店の名前にオーロラをつけました」

関東から長野に移住して7年目という須田さんは、どうしてこの場所にお店を開いたのでしょうか。

人と出会える場所づくり

きっかけは、東京に住んでいた時に体験した東日本大震災でした。須田さんは夫婦でこれから先、どんな暮らしがしたいのかと考え、話し合ったと言います。夫婦ともに埼玉で育ち、お互いの祖父の家が長野にあったことで、子供の頃から長野に親しみを感じていたという二人は、“やっぱり自然に囲まれた暮らしがしたい、しなかったら後悔するだろう”と、長野への移住を決意しました。

「自然に囲まれた長野での暮らしって贅沢だけど、常に誰かによって楽しませてもらえる都会とは違うから、いつか物足りなさを感じてしまいそう。自分たちでも何かやりたいしできるかもしれない、という気持ちがその頃から芽生えていました」

 

そして、2013年に長野へ本格移住。須田さんはデザイン事務所兼店舗を構えたいと、門前の空き家見学会などにも参加しました。しかし、改修費や実現可能性に不安を感じ、開業計画は一旦保留に。しばらくは自宅で東京の仕事に明け暮れる日々を送りました。けれど、いつも“妄想のような”開店の夢を聞いてもらっていた旦那さんの“そんな構想があるなら、すごくいいと思うから早くやりなよ”という一言に後押しされ、ついに開業準備に至りました。

木曽の木工職人の手による縁台が喫茶スペースに。紅茶やハーブティなどで一服できる

旦那さんが散歩の途中で見つけたという店舗は、築100年近い長屋。20年前に一度改修されていたとはいえ、抜け落ちた屋根の葺き替え、朽ちた床の張り替え工事など改修工事が必要で、開店までには着工から3ヶ月ほどの時間がかかりました。
お気に入りは、珪藻土で塗った青い壁。日の当たり具合によって微妙に色が変わるといいます。

オーロラキッチン の第一目的は、“人が街に出てお買い物を楽しめる場所を増やすこと、そして、人と出会うこと”。Instagramでの発信はすれど、ネット販売はせず、店頭に足を運んで立ち寄ってもらうことを基本としています。

こちらの漆器は使うほどに色が明るくなっていくそう

「ネットには情報が多すぎて、物を選ぶのも一苦労だと思うんです。手に持って使う道具は、画面上で視覚だけで選ぶより、重さや大きさや質感を自分の手で確かめてから買いたい、と思っていました。開店して一番よかったのは、”こういうお店ができて嬉しい!買い物ができる場所ができて嬉しい”と何人もの人に言っていただけたことです」

物の背景に想いを馳せて

オーロラキッチンのもう一つの目的は、時代とともに埋もれて消えてしまいそうな伝統文化や技術を継承していく場所の一つにすること。
「長年、紙やウェブなどの平面で間接的にコミュニケーションに関わってきましたが、店舗という『空間』を通して人と接しながら情報発信をしたいという想いが深まっていました。“古くて廃れそう”だったものさえも、この場所で、見せ方を変えるだけで再び魅力的に見えるかもしれない。物の背景に想いを馳せてもらえるような情報も提供していきたい。そういうところでデザインの力を出せたらいいなと思っています」
 

2階は「習う場所」に。南信州飯島町の藁細工職人を招いた締め飾りのワークショップ

こうして、着想から実現まで長い年月をかけて育まれた須田さんの場所作りへの情熱と物選びへの深い視点こそが、オーロラのような色彩を織り成し、お店全体を調和で包んでいるようでした。

企画・編集・写真・ギャラリー
「ナノグラフィカ」

近年、善光寺界隈でリノベーションをして夢を叶える若者が増えた背景に“門前暮らしのすすめ”プロジェクトがあります。このプロジェクトの中心人物、企画・編集室ナノグラフィカの増澤珠美さんを訪ねました。

善光寺仁王門からほど近い西之門町にあるナノグラフィカと増澤珠美さん(写真左)

門前の名物企画 “空き家見学会”

ナノグラフィカ の活動拠点は築100年の町家。増沢さんらが2003年に借り受け、改修や補修をしながら大事に守り暮らしています。
増澤さんが門前で暮らし始めた頃は、“リノベーション”という言葉もそれほど知られていなかった時代。趣のある建物が使われなくなっていったり、取り壊されてコインパーキングになっていく様子を目の当たりにした増澤さんは、「面白い建物は残せたらいいな、使えるものは使えたらいいな」「空いている家に人が住んだら、街はもっと元気になるんじゃないか」という想いが募ったと言います。そして、2009年からナノグラフィカ が事務局となり、月1回のペースで“空き家見学会”が始りました。
空き家見学会は、案内人と使われなくなった家、使い道がありそうな家を訪ねてみるという企画。不動産会社「マイルーム」を営む倉石智典さんが案内役を務める

門前での開店や入居に興味を持つ若い人たちに口コミで広がり、10年近く続いてきた空き家見学会。これまでに約100名ほどがこの見学会をきっかけに、実際に入居に至ったそうです。取材で参加した私ですが、善光寺界隈の通りの名前や歴史的背景、建物の特徴などの話はとても興味深く、空き家がどんな風に生まれ変わるのかを想像して、わくわくしました。参加費は無料。開業や引越しの予定がない人でも、善光寺界隈の雰囲気や歴史を味わいたいならおすすめです。

古いまちと新しい人をつなぐ場所

増澤さんは、空き家見学会のほかにも門前の暮らしを楽しむ催しや演劇のワークショップなどを企画運営しています。1階の喫茶室・ギャラリーは、以前は定期で営業していましたが、現在はスタッフの都合で催しのある時間帯のみ開店というスタイル。

ちょっと腰をかけてみたくなる軒下のベンチや、戸口の前の“ご自由BOX”などがナノグラフィカのオープンさを物語っています。
「自分たちの住む町だから、自分たちも周りの人も楽しくなるようにしたい」そう語る増澤さんの想いが溢れる、素敵な空間でした。


リノベーションを切り口に、善光寺界隈を巡る旅はいかがでしたか?ご紹介した場所は、機能は異なるものの、どこも居心地がよく、そこにいる人たちがのびのびと仕事に励み、あるいは暮らしを営んでいました。
そう、リノベーションとは、ただ古い建物を改修したり、内装を新しくすることだけじゃなかったのです。その場所を使って、自らの夢を叶えること、そのための空間づくりこそが、本当の“リノベーション”なのだと。
このほかにも、善光寺界隈では、様々な人がそれぞれの夢を叶えるために、リノベーションをしています。善光寺を訪れたなら、ぜひリノベーションが光る路地裏を歩いてみてください。素敵な出会いや発見があるかもしれません。

andcraft, Inc.

WRITER

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