「こういうことなんですよ」と笑う佐久間さん。取材を初めてわずか数分の間に、この場所は、いろいろな人と情報が行き交い、新しいアイディアが生まれている場所だということが伝わってきました。
人と人を“つなぐ”ということ
この場所の主として皆に愛されているような印象の佐久間さんですが、実は飯綱町に来たのも数年前のこと。いいづなコネクトEASTの管理人としては、まだ3ヶ月(2020年12月取材時)のニューフェイスです。佐久間さんは、どうしてこの職場を選んだのでしょうか?
「この施設ができると聞いた時から、面白そうだなと思っていて、オープンしてすぐに、知り合いの地元のおばあちゃんと一緒に見学に来たんです。その時、ぼくはコミュニティラウンジの窓の外の景色にすごく感動したんですね。山があって、田畑があって、りんご園があって、寺があって神社があって、森に続く林があって。まるでジオラマみたいで。だけど、隣にいるおばあちゃんは、“きれいになったね〜”とか、“あの照明オシャレだね〜”とか、全然違うところを見ていたんです」
イベントなどにも使える吹き抜けのコミュニティラウンジ
その時、佐久間さんは“地元の人と外から来る人で、見るところも感動することも全く違う”という事実に気がつきました。
「ぼくは、施設を作ることも、デザインすることもできない。ソフトもハードも作ってもらって、その上に乗っかっているだけなんです。それなら窓の外の景色がとてもきれいで価値があるものだということを地域の人に伝えることがぼくの仕事で、ぼくは、地域の人からこの小学校ができるまでのエピソードや思い出を教えてもらって、この施設がここにあるという奇跡に感動しようと思ったんです」
旧図書室を改装した「ブックラウンジ」にはマンガが充実。地域の小学生のたまり場になっている。
そんな想いから、カンマッセいいづなに入社した佐久間さん。当初、地域の人からは“もじゃもじゃ頭の変な奴が来たぞ”と噂され、冷やかし半分で様子を見に来る人もいましたが、臆することなく持ち前の愛嬌でコミュニケーションを取り続けました。
「こういう田舎では、移住してきた人=変な人だと思われるんです。特に、何か新しいことを始めるとき、地域の人に理解してもらうのはめちゃくちゃ大変で、理解がないままに物事を進めると絶対うまくいかなくなるんです。だけど、ちゃんとこちらの伝えたいことを話して、理解し納得してもらうことで、初めは足をすくって来たような人も“何かあったら俺に連絡しろよ”って言ってくれるようになりました」
“化学反応”が生まれる場所
こうして、地域の人にだんだんと受け入れられるようになってきた佐久間さんは、同時に、施設の利用者にも働きかけました。
「ここの1階には、シードルの醸造所とカフェ、2階にはこの施設のプランニングを手掛けた凸版印刷のサテライトオフィスや、地元の建築会社などテナントが入っていて、誰でも使えるチャレンジラボや、ワークラボがあります。最初は、テナントの人と地域の人がすれ違っても挨拶だけで終わっていたり、コワーキングを使っているSEっぽい人も、すぐ横に凸版の人がいるのに会話もなくて、もったいないなぁと思っていました」
飯綱町のりんご農家が起業したシードル醸造のための学校「林檎学校醸造所」
飯綱町産のりんごのスイーツが好評で地域内外から多くの人が訪れるカフェ「泉が丘喫茶室」
佐久間さんが内と外の分け隔てなく積極的に声をかけ、情報交換をするうちに、“どこかで同じような話を聴いた”ということが起きるようになりました。
「毎日いろんな人と話すうちに、“それだったらあの人詳しいから、今度話してみなよ”って、知り合った人と人をつなげていったら、周りで勝手に化学反応が起き始めて、それを見ているのがすごくうれしくて、楽しいんです」
旧図工室「チャレンジラボ」には3Dプリンターや工業用ミシンがあり、だれもがものづくりに集中できる空間
コワーキングスペース「ワークラボ」。パーテーションや棚には間伐材が使われ、居心地抜群
ところで、Wi-Fiが完備され、快適なワークスペースがあるいいづなコネクトEASTですが、利用時の際は、窓口で申込書に記入し、後で利用料を払うというアナログなシステムがとられています。その理由を佐久間さんに伺ってみました。
「それは、受付業務を地域のシルバーさんに委託している日があるからなんです。ぼくも最初はパソコンを使える人を雇って、事務作業も会計も効率化した方がいいんじゃないかと思ってたんですが、最近は地域のおじいちゃん、おばあちゃんが受付にいる方が、IT化よりもずっと価値があると思うようになりました。例えば、ここの地理とか歴史にめちゃくちゃ詳しい〇〇さんがいて、〇〇さんのキャラクターを見える化してあげることで、その人を目的地として人が集まって来る可能性もあるんじゃないかと。ITを導入することは簡単で誰でもできるけれど、アナログなところをつなげるのがローカルの良さ、ぼくの仕事だと思っています」