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トビチ商店街を旅する

Trip into TOBICHI SHOTENGAI

自分の住む町の商店街に、どんなお店があったらワクワクするだろう。
おしゃれなカフェ、日替わりがおいしい定食屋、エコな洗剤や真冬でも無敵の靴下が買える雑貨屋、心穏やかに集中できるワークスペース...。
長野県の小さな町で、そんな“ワクワク”をカタチにするために立ち上がった人の物語。

今より少しワクワクする未来を。

“ここは、空き家と空き店舗がごろごろあって、宝の山だと思いました。

そう切り出したのは、2016年に辰野町にUターンし、現在、一般社団法人○と編集社の代表理事として下辰野商店街に事務所を構える赤羽孝太さん。

一般社団法人〇と編集社代表理事の赤羽孝太さん。辰野町で生まれ、高校卒業後、首都圏の大学へ進学して建築を学び、大学助手、大工、設計事務所勤務などを経て独立

赤羽さんが辰野町のまちづくりに関わることになったきっかけは、2013年のこと。“町に空き家が500件以上もあって、その対策を協議する「辰野町移住定住促進協議会」が立ち上がるから参加してみないか”という、叔父さんからの電話だったと言います。

長野県辰野町。伊那と松本を繋ぐ輸送の拠点として辰野駅を中心に商工業が栄えたが、1970年代後半の中央自動車道の開通、マイカーの普及などにより、商店街は次第に廃れ、町の人口は、1980年をピークに減少している

“僕自身は、高校卒業と同時に町を出てしまったので、特別な想いがあったわけじゃないですが、毎年、お盆と正月に帰省する度に、あっちのお店が閉じ、こっちのお店が閉じて、次第に活気がなくなっていくのが寂しいと、どこかで思っていました。建築の仕事をしているので空き家の話なら何とかできるかもしれない、と参加することにしました。”

2014年1月の辰野町移住定住促進協議会設立総会(提供写真)

とはいえ、平日に開催されることが多い協議会に、サラリーマンが遠方から参加するのは困難でした。赤羽さんは2014年に独立し、建築事務所を起業。東京と辰野の二拠点生活を続けながら、「空き家バンク」の立ち上げに携わりました。

“振り返ると、当時は町のことも行政のことも全くわからず、外からこうしたらいい、ああしたらいいという、無責任なアイディアマンでしかなかったので、アイディアが実現しなかった理由がよくわかります。”

辰野町と東京を往復していた2015年頃、設計を担当した新築住宅の上棟式にて(提供写真)

「空き家バンク」サイトはできたものの、登録物件数を増やすためには、現地で動く実働部隊(=プレイヤー)が圧倒的に足りませんでした。そんな状況下で、赤羽さんは、自らプレイヤーとなる道を模索し始めました。

まちを歩いて得たもの

2016年、赤羽さんは東京の事務所を畳み、任期3年の「集落支援員」という立場で辰野町へ戻ってきました。当時、協議会の事務局を務めていた辰野町職員の野澤さん、地域おこし協力隊だった建築士の溜池さんとともに、それまで見放されていた空き家や空き店舗を「価値のあるもの」と捉え、新たな策を練りました。そのひとつが、「休眠不動産見学会・説明会・まちあるき」でした。

商店街界隈をぶらぶら歩き、地域の今昔や状況を感じてもらいながら、ついでに空き店舗・空き家を見せてもらう「休眠不動産見学会・説明会・まちあるき」は、奇数月の3or4週目の土曜日開催(提供写真)

“辰野町は松本や伊那、諏訪、岡谷など4方面にアクセスでき、空き家・空き店舗は選びたい放題で、家賃も安い。何かを始めたい人、自分でやりたい人たちに来てもらいたい、と思ってまちあるきを始めたら、地域の人も関心を持ってくれるようになって。歩いていると、新たな空き家情報が入ってきたり、ぼくたちにとっても貴重なフィールドワークになるので、たとえ参加者がいなくても、その時間は必ず町を歩くようにしています”

 

赤羽さんが「はじまりの人」と呼ぶ辰野町の野澤隆生さん。野澤さんの発案により「空き家DIY改修イベント」などさまざまなプロジェクトが生まれた(提供写真)

赤羽さんは、宅建士と建築士の資格を活かし、普通の不動産屋は扱わないようなボロ家や、家財道具が放置されたままの物件に目を付けました。改修すればまだ使えそうな物件を選りすぐり、格安で空き家バンクに登録。さらに、空き家バンク成約物件の「DIY改修イベント事業」によって、安価でリノベーションのモデルハウスを作る作戦を実行しました。

DIY事例の第1号目となる築約130年の古民家。全11回、延べ250名の参加者を集め、通常の5分の1の改修費でリノベーションが完了(提供写真)

2017年4月にオープンした「農民家ふぇ あずかぼ」(提供写真)

このようなユニークな取り組みはメディアにも取り上げられ、空き家バンクの知名度はもちろん、地元の人たちの理解度も大きく向上しました。現在、辰野町の空き家バンクには年間約30件の新規登録があり、登録から1年後には78%が契約交渉に至るという、全国でも稀に見る稼働率を誇っています。

辰野町移住・定住応援サイト「たつの暮らし」

「今より少し、ワクワクする未来」を共有する

集落支援員の活動と並走する形で、赤羽さんは自己資金で下辰野商店街の元洋装店を借り、リノベーションを進めました。そして、2018年夏にオープンしたのが、シェアスタジオ「STUDIO リバー」でした。

“最初は自分の建築事務所を3階に置いて、活動資金が貯まる度に少しずつ改装していきました。今、地下1階はレンタルスペース、1階はコンセプトショップ、2階はシェアスタジオ(会員制)、3階はデスク会員限定のコワーキングスペースになっていて、県内外で20名ほどの会員さんが利用しています”

洋装のリバーを改修した「STUDIOリバー」

日用品や雑貨のセレクトショップ○とen-shouten(マルとエンしょうてん)

さらに、STUDIOリバーの最初の会員でデザイナー・編集者の奥田悠史さん、空き家バンクプロジェクトの同志でもある溜池のどかさん、コミュニティデザイナーの山下実紗さんを迎え、一般社団法人「◯(マル)と編集社」を設立しました。(現在は、自転車冒険家の小口良平さんを加えて5名)

◯(マル)と編集社集合。右から溜池さん、山下さん、赤羽さん、奥田さん、小口さん(提供写真)

“○と編集社の「○」の中に入る言葉は、「まち」の時もあれば、「企業」の時もあれば、「人」の時もあります。ディレクションや企画、建築、デザインという方法を使って、その人、その企業、その地域を再発見して、再編集する。そして◯の未来にワクワクする人を増やすことがミッションです。”

「ワクワクする人を増やす」ために、赤羽さんたちが大切にしていることは、自分たちがワクワクすること。まず、自分たちが実証実験をすることを基本にしていると言います。例えば、空き店舗が点在する下辰野商店街を「トビチ商店街」と名付けた商店街リブランディング事業。

その事業のビジョンを皆で共有しようと、「今より少しワクワクする10年後の商店街の1日を体験すること」をコンセプトに、「トビチmarket」という1日限りのマーケットを開催しました。

2019年12月7日に開催した「トビチmarket」のチラシ(提供写真)

“人を呼ぶことが目的のイベントではなくて、自分たちがどんな町を目指して取り組んでいくのか、10年後の1日を前借りして体験することで、ビジョンを共有することが目的でした。だからこそ、自分たちが本当に来てほしい、素敵だなと思うお店に直接声をかけました。地元の利益を優先したり、地元企業や店舗の協賛をもらうことは一切しませんでした。”

下辰野商店街の21の空き店舗に、県内外から54の店舗が出店した「トビチmarket」(提供写真)

資金繰り、準備、当日の運営に至るまで、人と人とのつながりを駆使し、手づくりで作り上げた「トビチmarket」は、1日で4,000人余りの来場者を集め、多数のメディアにも取り上げられるなど、多くの反響を巻き起こしました。

トビチmarketの様子を関係者のレポートと写真で記録した「トビチmarket アーカイブブック」。全国各地からの問い合わせや視察、移住希望者などに配布(有料)することで、そのビジョンを後世に伝えている

どうせだったら楽しい方がいい。

トビチmarketから2年余り。マーケットへの出店を機に、リアル店舗を構えた人もいれば、マーケットに来場して商店街が気に入り、新事業を始めようという人もいます。なかでも、一番の成果は、“地域の人に「説明」をしなくてよくなったこと”だと、赤羽さんは言います。

“住民の皆さんに「あれを目指している」ことが理解してもらえるようになって、応援してくれる人も増えたし、すごくやりやすくなりました。やりやすいから辰野町、どうせだったら楽しい方がいい。集まっているメンバーは、もともとこの町に特別な思いがあるわけじゃなくて、ここで特別な場所を作って、好きになっていく感じです。外から来る人も、好きな場所の一つになってもらえればいい、そういうスタンスでやっています”

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6年前、たった1人で帰ってきた赤羽さんの周りには、今、多くの人がいます。と編集社にも、さまざまな形で関わる人が増え、新たな展開を迎えています。

○と編集社の事務所はフリーデスクで、辰野町地域おこし協力隊の拠点にもなっている

“そもそも、事業資金がゼロに近い状態で立ち上げて、当初は行政の業務委託を受けやすく、各種補助金を受けやすいようにと一般社団法人にしたんです。とはいえ、ずっと行政に頼っていくつもりはなく、3年間で会社の事業として事業化できるものはしていこうと。今まさにそのフェーズに来ていて、不動産事業や自転車事業など、収益拡大が見込める部分を切り分けて、分社化するための準備をしています。一社だと金融機関からのお金を借りにくいので(笑)”

お金にまつわる不躾な質問にも、笑顔で答えてくれた赤羽さん。その笑顔から滲み出る人柄の良さと、遊び心が、周囲の人を惹きつけ、巻き込み、辰野町に新たな人の輪を生んでいるのだと感じました。

取材の終わり、赤羽さんに将来の夢を尋ねると、こんな答えが返ってきました。

“僕は、陶芸家になるのが夢なんです。自分の存在感が大きくなり過ぎて、老害になる前に森に身を引こうと思ってます(笑)”

近い将来、陶芸家になった赤羽さんがいる辰野町の森は、どんなに愉しい森だろう…そんなことを想像すると、またワクワクするのでした。

 

andcraft, Inc.

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andcraft, Inc.
長野県長野市を拠点に各種デザイン・映像を企画制作しているデザイン会社です。ミッションは“手仕事で世界のひとりに感動を”。into the localでは、ローカルに存在する価値あるもの・こと・人を取材してお伝えします。